千泡沫庭園

幾つもの泡沫から為る、どこか懐かしい庭園へ。

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ぷろふぃーる

さいしんきじ

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「黒の死神との出会い」 


ふらりふらりと、骨だけの魚が、宙を泳ぐ。餌を探しているのか、たださ迷うだけなのか。
その下で、うわ言のように、少女の声。


「生きなきゃ……生きて、あの娘と、話さなきゃ……」


砂の大地。大きな建物は近くにない。果てなく砂の地平線が広がっていた。壊されたのであろう無機質な残骸が、ごろごろと横たわっている。
それに紛れているのは、幾多もの人間の死体。焼けたものもあれば、数多もの傷痕を残すものもある。そして傷だらけである少女も、その中で倒れていた。夜を体現するような髪、だが、それでさえも砂で汚れている。
彼女だけが、息をしていた。しかし、もう、長くはないだろう。既に起き上がる程の気力は残されていなかった。恐ろしいくらいに、痛みは感じず、感覚でさえ、薄れかけている。
辛うじて、不規則に呼吸を続けながら、少女は虚空を眺めた。空から砂が、滝のように落ちてくる。いつかは砂で、ここ一帯は埋め尽くされてしまうだろう。思わず何粒かの涙を溢す。と、涙の雫はふよふよと宙を漂い始めた。シャボン玉のように、次々と空へ溶けていく。
それを見届けると少女はゆっくりと目を閉じ、今までの事を思い返していた。


あれは本当に、突然の事。


――ある日、少女の住む町の上空から、滝のように砂が崩れ、それだけで多くの人が犠牲になった。
それから数日後。砂の落下は止まぬまま、突如現れた機械の兵器に、少女の町を壊された。血は雫となり、ふわりと宙に浮かび上がる。それも、数え切れない程。紅い球が、乾いた空を埋め尽くしていたその光景は、少女の脳裏にも深く焼き付いている。
そして、少女は見た。
町を壊したその機械の軍。彼らの頭にしがみつく、彼女と同じ背格好の少女の姿を。頭上には花の冠、朝日のような髪を揺らし、遠い地平を眺めていた。
――どうしてあの子はあんなところにいるのだろう?
少女は声をかけようとした。しかし、それよりも先に、少女は致命傷を負ってしまう。
動けない少女を尻目に、あの娘は、機械に揺られ、何処かへ行方を眩ましてしまった。

追いかけられたなら。少女の声は更に涙ぐむ。


「だ、れか……つたえて……、かみさま……」


そんな嗚咽混じりの声が、段々消えていく。
そこへ、音もなく舞い降りる影。


「これで、最後か」


その男は弱りきった少女を見据え、冷たく、言い放った。





――――――

1.「黒の死神との出会い」





声が聞こえた。少女は重い瞼を半分開き、首だけを動かしそちらを見た。


「だ、れ……?」


掠れるような声で、少女は問う。男の表情はそのままに、答えだけが返ってきた。


「私は死神。魂を向こうへ還す者」


死神と名乗る男は、こうも呟いた。この辺りの魂を回収しに来た、少女でもう最後だ、ということを。
それを聞いて、少女は再び目を閉じる。


「かみさま……いや、しにがみさま……どうか、私に、もう少しだけ、命をください……」


そうして、祈る。
死神はただ、静かに問う。


「如何なる理由か。……幾ら祈れども、死からは逃れられない」


そのまま、刀を抜いた。話は聞くが、あくまで辞世の意としてだろう。
しかし、少女がそんなことを知るはずもなく。彼女は精一杯の祈りを並べた。


「あの娘と……話が、したい。機械に、すべて、壊された、理由……話さえ、できれば――」


その言葉の後ろに、何かをぼそぼそと、呟いた。聞こえるか、聞こえないかの境であろうか。
不意に、大気が震動する気配。宙を泳いでいた骨の魚は、それにぎょっとしたらしく、辺りをぐるぐると旋回し始めた。やがて震動は小さくなり、直後、少女は遂に動きを止める。目は固く閉ざされたまま――そうしてその姿もいつか、砂に埋もれて風化してしまうに違いない。


しかし。


「……」


砂の大地、眠るような少女の、傍らに立つ死神。彼は明らかに動揺していた。
手には刀が握られたまま。すぐにそれをしまおうとはしなかったのだ。


「この娘は……」


気づけば、死神の傍らには、ぼんやりと光る光球が。しばらくそのまま立ち尽くしていた死神だが、やがて我に返ると、刀を地面に突き刺した。同時に、刀は砂のように崩れていく。
それから彼は、光球を見た。淡く白い光、優しさを感じながらもその光球は、強い光を発していたように思える。


「……ここまで強い思い。今まで感じた事なんてあっただろうか」


約束を、突きつけられてしまった。死神はそうこぼす。
ふと、空を見上げた。旋回を続けていた骨の魚は、ゆらりと群れを成す。そのまま、何処か向こうの空へと泳いでいった。残されたのは、砂の落ちる音。ざらりと、その音は緩やかに終わりへ近付いていた。

――何れ程の時を刻んだだろうか。
それからまた長い間、彼は再び光球を眺めていたが、不意に光球に、手を翳す。


「何がこれ程まで、私を突き動かしているのだろうな……全く以て、可笑しな話だ」


呟くように、死神は何かを唱え始めた。光球は、緩やかに輝きを増していく。やがて、辺りは静寂に包まれた。時が止まっているかのようだ。
広い広い砂の大地、死神は目を閉ざし、言霊を並べた。


「……誓おう。『この娘との約束を果たすまで、私は彼女の側にいる』と」


最後に、砂の崩れる音。そうして、空から落ちてくる砂はぱったりと途切れていく。

気づけば辺りは深い、夜の闇に沈む。死神は、その両腕に先程の少女を抱いていた。その瞳は未だに開かれはしないが、小さく、確実に呼吸をしている事を確認する。地面に置かれていたはずの少女の体躯や、光球はもう、見えない。

見れば、彼の踝辺りまでに、砂は溜まっているのだった。死神は一旦少女を下ろし、埋もれた足首を砂上に上げる。ようやく一段落ついたと感じたのか、彼は細くため息をついた。


「……ふぁあ、おは、よー……」


足下から欠伸が聞こえる。死神がそちらへ注目すると、少女が眠そうな表情をしながらこちらを見ているのだった。少女の瞳が死神を捉えると、彼女はゆっくり、こう問うた。


「アナタ、だあれ?」


その問いに、死神は暫く黙っていた。少女はそれでもぼんやりと、彼を見つめる。
そして、彼は答えた。


「……私は、『黒燕』」


死神――いや、黒燕は真っ直ぐに少女を見た。その眼差しに、少女はゆっくりと身体を起こす。


「くろ、つばめ……? どうして、私の……あれ、私の……?」


徐に、少女は不安そうな顔になる。辺りを見渡しながら、何かを捜す動作を始めた。


「ここ、どこ……? 私、なんでこんなところにいるの? なんでこんなに暗いの? なんでアナタしかいないの? なんでアナタは私を見てるの? なんで何もないの? なんで、ここは、砂ばかりなの……? こわい、こわいよ……」


迷子。そう言ってもおかしくなかった。今の少女は錯乱状態に陥っている。恐らくは、憶えていないのだろう。
流石に黒燕も、これは想定外だったようで、思わず後退りしてしまった。
少女は両手でその顔を覆ってしまった。わからない、わからない、と。
その様子を暫く眺め、しかし、黒燕は覚悟を決めたようにひとつ頷くと、「迷子」の少女に屈み込む。そうして、その頭を優しく撫でてやった。びくりと、彼女の身体が跳ねる。しかしそれは一瞬だけで、少女は顔から手を離し、そんな彼を、不思議そうな瞳で見つめた。


「……心配など要りません……『私は、あなたの従者』なのですから」
「じゅう、しゃ……?」
「『私はあなたに仕える者』、『あなたは私の主』……」


黒燕はひたすらに言霊を並べる。少女も必死に、汲み取ろうとしていた。


「黒燕は、私の、従者……なの?」
「はい」
「本当に?」
「……『約束』を果たす為に、『私たちは旅をしている』のでしょう」


約束? 少女が首を傾げ、黒燕が口を開く。


「お忘れですか? あなたが私と交わした『約束』を」
「……ん、ううー、わから、ないよ……?」
「それでも私が憶えています」


黒燕は真っ直ぐに、寐夜を見つめた。


「誰かが憶えているのならば……きっと、『約束』は果たされるはず。しかし、それはあなたがいなければ為し得ない……」


少し間を置いて、彼は続ける。


「大変失礼な事とは存じますが……あなたの名前を、私は知らないのです。聞く機会を得ないまま、此処まで来てしまった故に」


黒燕は、手を差し伸べた。その手を、少女は、その黒い双つの瞳に映し出す。


「……あ、それなら憶えてる!」


不意に、少女は笑顔になった。黒燕が、初めて見る笑顔に。


「私の名前は、寐夜だよ」


そしてそのまま、少女――寐夜も彼の手を握る。そのまま黒燕は彼女の手を引き、立ち上がらせた。


「……寐夜、様」
「"みやさま"! えへへ、何だか照れちゃうよ」


それからも、黒燕はずっと寐夜を見つめていた。あまりにも真剣すぎるその眼差しに、寐夜は思わず顔を綻ばせる。


「寐夜様」
「なぁに、黒燕」


やがて彼は、言い放った。


「……『旅を、続けましょう』」


その言葉に、寐夜は大きく頷いて、やはり、笑う。


「うん! 一緒に行こう!」


夜の砂の上、歩き出す二つの影。
風が吹き、砂が舞い上がる。宙に漂う砂の粒。

そして物語は、其の歯車を廻し出す。



――――――
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