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千泡沫庭園

幾つもの泡沫から為る、どこか懐かしい庭園へ。

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ぷろふぃーる

さいしんきじ

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「氷化」 


気付けば其処に、氷の船。

陽はいつの間にかその姿を消していた。常夜の闇が顔を覗かせる。
冷気が蔓延し、世界が凍り付く。緩やかと、しかし確実に。
目の前には、天を貫く程の氷の塔。かつて其処は、大きな街。多くの人が住んでいた。凍てつく世界は、過去まで包み込んでしまう。

闇に沈む世界、氷に呑まれる世界。
全てを目の当たりにし、全てを悟り、そうして、青年は膝から崩れ落ちる。


「世界は、眠った……街と、人間――妹と共に……」

小さく、消え入るような声。その言葉を聞いていた他の人間など、いただろうか。





――或るところに、氷の船と呼ばれた星の世界がありました。
世界が凍り付いた時、本来いるはずだった人間は、世界と共に氷に閉じ込められてしまいました。
そして、その期から、いつまでも夜が続く其の世界と成り、光が、陽が失われることとなったのです。

これは、氷船という名の世界に取り残された青年が、光を求めて世界を動かす、ある種の船旅を綴った物語。




「Ark.to-Li.P」

追い求める、世界。

――――――

1.


『オルフェール、オルフェール。貴方は何処……何処へ?』


俯く青年に、何処からか語りかける声がした。透き通った声色、遠くの方から、聞こえてくるようだ。
座り込んだ状態のまま、その顔を上げる。そこで初めて気がついた。目の前の氷の塔――かつて自らが住んでいた街だった所――だけでない、一面に広がる氷の世界。月の明かりに照らされて、ぼんやりと光っている。が、太陽のような眩しさはない。
愕然とした青年の、頭上から声がする。しかし、先程とは別の声。


『ようやく、きづいた!』


見上げるとそこには丸い月。月光を背に、握りこぶしのような丸い生物がふよふよ漂っていた。触角がぴょこぴょこと動き、その羽は蒼く透き通っていて綺麗だったりする。


『ずっと、ずーっと、きみにはなしかけていたのに。でも、これでおはなしできるね!』


丸い生物は、何だか嬉しそうだが……青年にとってはそれどころでないようだ。静かに首を横に振り、目を覆った。何も言うな、と言わんばかりに。半ば平静を失っているかのように見えた。
それでも構わず、丸い生物は続ける。


『はだしだとさむいよ? くつは、どこかにわすれてきちゃったの?』


裸足で座り込む青年は、依然として目を覆い隠している。


『ぼくのなまえは、ウルル! みずの、せいれい!』


どうやらこの生物は、ウルルという水の精霊らしい。


『ねぇねぇ、どうしてきみは、ここにいるの?』


そうして再び青年に呼び掛ける。その問いかけによって、我にかえったらしく、再度、徐に顔をあげる。今度は目の前にウルルがいた。
ウルルを映した瞳は、どことなく虚ろげで、よく見えていなかったのかもしれない。焦点もうまく定まらず、ゆっくりと、彼は口を開いた。


「僕が聞きたい……何故、僕は無事なのか……? 何故、僕だけなのか……?」


ウルルの後ろに聳える氷の塔。街も人間も、全てあの中に。辺りは一面、氷の世界。彼以外に、人間は見当たらない。


『なんでだろう? なんでだろう? みんな、あのなか』
「そうだ。街も、人も……僕の妹も」


小さく、独り言のように、青年は呟いた。ウルルは羽をぱたぱたとさせている。


『こおった、みんなこおっちゃった。きみ、ぼくらをつかう、たったひとりの、にんげん』


ウルルの言葉と共に、青年は立ち上がる。氷の大地を、裸足で踏みしめているにも関わらず、寒そうな、痛そうな素振りは全くしなかった。


「君らを……精霊を使う、たった一人の人間?」
『そう! ぼくら、ほしをうごかす。うちゅーを、こおりのふねでたびする!』
「氷の船で、旅をする……?」


青年は灰色の目でウルルを見つめる。しばらくその状態が続き――やがて、静寂を打ち破ったのは青年の声だった。


「……姿を消した、陽の光を、捜せる?」


見開かれた青年の瞳は、少しだけ、希望を仄めかせていた。それに応えるように、ウルルは何故か楽しそうに踊り出す。


『できなくはないよ! このうちゅーのどこかには、ひかりがあるもん』


それを聞いた青年は、一気にウルルに詰め寄ってきた。


「僕は街を、妹を救う事が出来るのか?」
『もちろん! きえたひかり、ぼくらもさがしたい! てつだうよ!』


その時青年は、確かに、微笑んでいたらしい。白い吐息が、寒空へ溶けていく。


『うちゅーはひろいよ! とてもとても、ながいながいたびになるかもしれないけど、だいじょーぶ?』


その言葉に、青年は氷の塔を見据えた。ぼんやりとした視界の中で、青年は決意する。


「覚悟は、出来ている。……あの全てを、僕が救う事が出来るというなら」


長く結んだ銀の髪、白いローブを纏う青年の姿。ウルルの目にはしっかりと焼き付いていた。満足そうに頷くウルル。


『ねぇ、そーいえば、きみのなまえをおしえてよ!』


最後にウルルは、こう聞いた。
青年は、一度瞳を閉じ、細く息を吐いてから、再び開かれた灰の瞳をこちらに向ける。


「オルフェール。……オルフェール・オルフィア=ノーマン」


静かなはずの氷の船上で、人間と精霊の話し声が響き渡っていた。






『オルフェール、オルフェール……何処、何処へ向かうの? 光を求めて……』


再度聞こえてきたあの声。しかしもう、彼の耳には届いていない。





→2.

――――――
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