千泡沫庭園

幾つもの泡沫から為る、どこか懐かしい庭園へ。

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ぷろふぃーる

さいしんきじ

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夢の影-2.5 


白い空間はどこまでも続く。
視覚上には何もない。
動く人間が二人。
しかし、しかしだ。耳に聞こえてくるのは、誰かの悲鳴。
青い青年は静かに耳を塞いだ。足元で少女が、不安そうに様子を窺う。


「柳尉、きにしちゃ、だめだ」


されども、柳尉は首を横に振る。


「ユメこそ、自分の事を気にするべきだ」


不服そうなユメ。
彼女が彼の心情を全て理解する事は不可能だ。

その声は、嘆きの色。
嗚咽が混じり、後悔の念が聞き取れる。
誰の声かまではわからないのだが。


「……聞き覚えがあるんだ」


ぽつり、柳尉が吐き出した言葉。

そうだ。
コ ン ナ コ ト モ 、 ア ッ タ カ モ シ レ ナ イ。




dream-2.5
嘆きの声、罵声の夢
-Malice's laugh.-



歩みを進める度に、その声は鮮明に聞こえてくる。
嘆きの声は、いつしか怒涛の叫びを伴っていた。
ユメにはその言葉の意味はわからないが、柳尉は耳を塞いだまま。彼にはわかるのだろう。


――我らはマレイス。マレイスがミラルドを治めるのだ!


マレイスとは何だろう。ユメがそれを聞く為に柳尉を見上げる。しかし、彼は目を閉ざしたまま。


――歯向かう奴は一人残らず消してしまえ!


やけに現実味を帯びたその声は、彼らに矢のように突き刺さる。
ふと目を閉じたまま、柳尉が口を開く。


「マレイス。……かつてミラルドにあった派閥だ」


ユメが曖昧に頷く。
ミラルドとは、柳尉の故郷。かつてユノトゥルの北の大地に存在していた街なのだが、今はその地に、何もない。


「強いて言うなら、マレイスは過激派。ミラルドの権威を掌握しようとした」


そう言って、その目で空を見上げる。
もやもやと、怪しい空気。


「後に倒される事になるんだけど、な」


刹那。
たくさんの嘆きとたくさんの罵声が、ユメの頭に響いてきた。
これがすべて、マレイスの仕業だというのか。


「こわい」


小さくユメが呟いて、柳尉にくっつく。柳尉はただただ目を細めるだけ。


「……何故辛い?」


そう問うたのは、きっと自分自身へ向けてだろう。ユメが答える前に、彼は再び目を閉ざしてしまった。

なにか、いる?

ユメがぽつりと呟いた。
そして浮かび上がるは、人の影。声の主であるマレイスのだろうか?意識するだけで、姿はいとも簡単に現れてしまうのか。気づけばそんな奇妙な物に囲まれていた。
表情は見えない。見えないまま、口だけが動く。
相変わらず、ユメには訳のわからない言葉が紡がれる。唄うように、流れるように。しかし、その言葉が綺麗なものとは思えない。
彼らが何か発する度に、ひやりとする。ユメの周りの空気が、冷たく感じる。


「……知らない」


ふと、柳尉が呟く。信じられない、といった面持ちで、目を見開いていた。


「そんな事、覚えていない……」


次にこんな事を洩らした。もう止めてくれ、と言わんばかりに。
柳尉の記憶は曖昧だ。もし、その霞んだ記憶の中に、抑え込んだ何かがあったとすれば――


「柳尉!!」


突如、ユメが声を荒らげた。
見上げる。そこに、人の影。襲いかかる、手中の刃。
間一髪それをかわした二人。しかし、二人の目には、構わず襲いかかろうとする影が映っていた。
反射的に、柳尉がフォグラルを手に取る。細い矛だが、見た目に騙されてはいけない。
――幻が幻に勝てるか?
柳尉が思考を巡らす。きっとこの人影は、幻のようなものであろう。マレイスがここに、この時代に、いるはずがない。
柳尉がフォグラルを掲げると同時に、天から幾多ものナイフが落ちてくる。しかしユメは動じない。知っている、これは幻。
そのナイフは人影に突き刺さり、いくつかは霧散するのだった。やはりこれは幻に違いない。ただし、幻ゆえの不安定さだろうか、全てが全て、幻で上書き出来るわけではないようだ。ナイフが突き刺さっても尚、動きを止めない人影さえいる。
人影の狙いは、どれも柳尉ばかりであるようで。突き刺さんとばかりの勢いで、思わず圧倒されそうだ。
不意に、囲まれた。しまった、と気付いた時にはもう遅い。人影たちは一斉に、柳尉に飛びかかる。


「ゆめのら」


瞬間、氷の結晶で視界が埋め尽くされる。これは紛い物ではない。正真正銘、本物の結晶だ。
人影は、次々に結晶に閉じ込められていった。
柳尉がユメに微笑みかける。得意気に頷くユメ。今のはユメの技だろう。


「まだいる、ゆだんしちゃだめ」


再びユメが構える。膨大な量の殺気を感じ、柳尉もフォグラルを構え直した。
再度、人影が襲いかかる!
やはり変わらず、柳尉ばかりを狙うその物体は、不安定な揺らめきをみせていた。
柳尉が適当に幻術をぶちかましながら、フォグラルを槍の要領で振るっていく。近付けさせないつもりだ。取りこぼした人影は、ユメが捉えて叩き打つ。中々にいいコンビネーションである。
そうしていつの間にか数体を残すところになっていた。勝機が見えた。そう思っていたのだが。


「……ッ!?」


不意に柳尉が、再び頭を抑える。そうして突然、膝をついてしまった。片手を使い、フォグラルで身体を支える様子に、不安になったユメが思わず彼に駆け寄る。その隙を人影は見逃さなかった。ここぞとばかりに一気に襲いかかる!
ユメはそれに気づくと、一旦柳尉から手を離し、瞬時に構えた。そして例の技を発動させる。氷の結晶。それは次々と人影を閉じ込めていき、やがて辺り一面を呑み込んだ。
静かになった空間。それを確認すると、ユメはもう一度、柳尉に手を触れてみた。しかし、柳尉の変化に気づいたユメは、驚いてしまった。……彼は震えていた。
普段こんな様子を見せることがあっただろうか?ユメは益々不安になってしまう。だいじょうぶだぞ、だいじょうぶだぞ、と必死に柳尉に抱きついている。
そんな中、消え入りそうな声で、柳尉はぽつりと呟いた。


「マレイス……自分は、そんな、罵声に、耐えられない……」


彼の事を、自分と言い、それから柳尉は、力尽きたかのように目を閉ざして首をもたげてしまった。ユメが彼を強く抱きしめたのは、言うまでもない。


「柳尉……!」


何度か呼び掛けるが、反応はない。意識を失っただけだと思うが……ユメは今にも、不安で押し潰されそうだった。
しばらくユメの声だけが、この空間に響き渡る。





舞うのは扇を持つ少女。
見据えるのは白い鳩。
刀を両手でしっかりと握りしめ、狙いを付け――振り切った! 一気に何羽もの鳩が切り裂かれ、直ぐ様霧散する。しかし鳩の猛攻は際限ない。同時に下の液体のようなものから次々と鳩が舞い上がる。砂で固めた足場でさえ、そろそろ悲鳴をあげている。プリュは慌ててそこを補強しようとするが……鳩は要領よくそれを妨害する。こうも数が減らないと苦戦を強いられる一方だ。ミラムが刀を振るい続けるも、さすがに連続というのは体力が持たない。彼女の刀は、地上では重すぎる。だから一太刀一太刀に、力を込めるのがミラムの戦法だ。故に、相手が素早いとなると一気に不利になるというわけで。そこを今はプリュに援護してもらっているのだが、如何せん、この状況では中々うまくいかないものだ。
しかしミラムも諦めない。


「酒涙雨――」


大振りに一閃。自分らの周りの鳩を消し去る。また向こうから鳩が現れるが、時間稼ぎは出来ている。
ミラムは後ろを振り返り、叫ぶ。


「プリュちゃん!」
「だいじょーぶ、だよー。ミラムこそぉ、だいじょーぶ?」


案外プリュはけろっとしている。見ると、いつの間にか足場の補強も完了していた。あの状況でいつの間に……彼女には感謝せねば、とミラムは心に留めておく。
鳩がこちらにやってくるまでは、まだ時間がある。その内に、ミラムはプリュにある作戦を持ちかけるのだった。


「地を這う蛇。その技で道を作れないかしら?」
「あっ、そっかぁ……、んー。出来なくはないけどぉ、どうするのー?」


その言葉を聞いて、ミラムはひとつ頷いた。


「砂で道を作るの。砂の上ならまだ走れるわ……隙をついて、先に行きましょ」
「逃げるって事ー?」
「キリがないわ、だって」


そりゃそうだが。もっと早く気づくべきではなかっただろうか。まあ、しかしそれが一番最善な策である事も事実だ。プリュも頷いてみせた。


「……来るわよ!」


ミラムが構えるとほぼ同時、襲いかかってきた鳩の群れ。大きく振りかぶり、弧を描くように一閃。幾多もの水滴が滴れ落ち、鳩が霧散する。
プリュはしっかり構えてみせた。先へ先へ。繋がる砂の道を作ればいいだけだ。
向こうへ行ければいいのかなぁ、とプリュが思うも、とりあえずは詠唱を始める。


「砂舞い……“地を這う蛇の砂嵐”」


次の瞬間、先と似たような砂嵐が吹き荒れる。しかしそれは、地面(のようなもの)に対して、平行に置かれている。地面を一筋の砂の道が覆うような、そんな光景だった。道は長く、地平線の向こうまで続いているように見える。
鳩は上空で旋回している。どうやら今は、この砂嵐を恐れているようだが……時間が経てば、構わずやってくるだろう。
砂の道が敷かれると、ミラムはやった! とこちらを振り返る。そうして、プリュの元へやってきて、彼女の手を掴んだ。


「今の内よ! 行きましょう!」


そのままミラムは、プリュの手を引き、走り始める。ミラムは元々、海の中で暮らす種だ。走るのはあまり得意ではないというが、今はそんな事も言っていられない。先へ先へ伸びた道……足元が不安定ではあるが、それでも駆ける。
突如、二人の背から不穏な気配を感じた。プリュがちらりと後ろをみやると、鳩の群れが追いかけてきているではないか! 思わずプリュは悲鳴をあげてしまう。それを聞いたミラムは、少しばかりスピードをあげるのだった。


「追い付かれそう?」
「う、うーん……ギリギリかなぁ……このままのペースなら、だいじょーぶ」


プリュの答えに、ミラムは若干安堵する。実際鳩の群れは、そこまで速くもないようだ。


「このまま撒ければいいんだけど……プリュちゃん、しっかり掴まっててね」
「わかったぁ」


不可能ではない。無我夢中で走り続ける二人。
砂の上を走る音。後方からは、依然として羽音が聞こえる。足を止めたら厄介だ。ひたすら先へ、先へ。

地平線の向こうまで。砂の道は、永遠に続くかのように思われた。





留まる者と、急ぐ者。
そろそろだ、聞こえてくるのは……



――――――――――――


「思い出す前に、何か忘れていないだろうか」


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