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千泡沫庭園

幾つもの泡沫から為る、どこか懐かしい庭園へ。

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ぷろふぃーる

さいしんきじ

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雪中草花と「家族」の情景 


しあわせになるための花。


(イーブルパターブ+ラルジュ、本編三話終了後~四話開始前)


あの人は窓の外を眺めている。
いつもと変わらない。ただ、今日の外の通りは雪景色。ラティスで雪が降るなど、数年に一回あるかないかというのに。慣れない寒さに戸惑いながらも、厚着をした人々が、小走りに駆けていく。ふと視線をずらすと、小さなこどもがはしゃいでいる。こどもは元気なものだ。今にもこちらまで、楽しそうな声が聞こえてきそうである。
今日も忙しなく、時は進んでいくらしい。


「ミュカさん」


ふと、あの人を呼ぶ声がした。ミュカさんは徐に振り返る。俺はそんな光景を、黙って眺めている。
声の主を捉えると、ミュカさんは緩やかに笑みを溢した。


「ユウ、どうした?」


一方、ユウの面持ちはあまり穏やかではない。


「それがさあ……、アズとパルとチャルが出かけていっちゃったんだよね」


別にそれ自体はよくある事だ。しかし、次にユウが言った内容が問題だった。


「……雪中草花を捜しに」


途端に、ミュカさんの表情が堅くなる。雪中草花か……。


「セッチュウソウカ? 何よ、それー。私初耳」


隣からクックが話に入ってきた。と、今度はティグが、けらけらと笑いながら対応する。


「雪中草花ってのはぁ、雪の中に咲く花の事なんだぜ?」
「ふーん。……珍しいの?」
「何でも、雪があるとこにしか咲かねぇって話。ここいらではほぼ見れない、って言ってもいいくらいじゃね?」


確かにラティスには、雪がほとんど降らない。
クックは首を傾げる。


「でも、あの子たちは何でまたそれを捜しに?」
「……ボクがさ」


クックの疑問に、ユウが口を開いた。


「ボクが言ったんだ。雪中草花は、とっても綺麗な花を咲かせるんだって。それを聞いたら、三人で突然走って出ていっちゃった……」
「いやそこは止めるべきじゃない?」


クックが尤もな意見を述べると、ユウは申し訳なさそうに、


「だって、すごく楽しそうだったんだもん……」


と呟いた。
……わからなくはないが、ラティスで雪中草花が見つかるとは思わない。パルとチャル、ましてやアズまでいるとなると……変な所にまで捜しに行っている可能性も、十分に考えられる。
俺はミュカさんを見た。彼はやれやれといった面持ちで、ごめん、と洩らすユウを見つめている。
暫く考える素振りを見せ、ミュカさんがこう言った。


「私が迎えにいく。破夜、一緒に来てもらってもいいだろうか?」


……そう言うと思った、というのは、彼には内緒にしておく。
俺が頷くと、ミュカさんは手早く外へ出る支度を始めた。それに倣い、俺も、先まで読んでいた本を閉じる。


「もー、ミュカさんったら心配性なんだから」


伸びをしながら、クックが呆れたように洩らした言葉。ティグはにやにやと笑っているし、ユウは少々罰が悪そうにしている。


「今日、外すんごい寒いらしいから、二人共気をつけてよね」
「わかってる」


クックに忠告を受けたが、そんな事は重々承知している。
そうして支度を終えたミュカさんが、ユウに微笑みかけた。


「ユウ、そこまで気にする事じゃないから、大丈夫だ」
「うん……ごめん、ミュカさん」


その言葉を聞き、ミュカさんは扉へ向かった。俺も彼の後についていく。


「ミュカさん、余裕あったら宝石買ってきてー」
「おいおい」


ユウが突然性懲りもなく、宝石をねだってきたのはこの際無視することにしよう。本当にこいつは、反省しているのかいないのか、わかりにくい。


「行ってくる」
「いってらっしゃーい」
「気をつけろよ!」
「無理しないでね」


ミュカさんの言葉に、クック、ティグ、ユウが順に応えた。そうしてミュカさんが出ていったので、俺は黙ってミュカさんを追う。
……なるほど、外は相当寒そうだ。





ラティスの町。
雪に覆われたこの港町でも、人通りは変わらない。
そんな道を、緩やかに歩いていく三人の影があった。


「ねー、アズー。雪中草花、みつかるかなー」


赤茶色の髪の少女が、目を輝かせながらそんな事を言う。


「わかりませんけど、でも、私がいるからきっと見つかりますよ! パルちゃん、任せてください」


青い髪(といっても、毛先は心なしか茶色がかっているようにみえる)の少女――アズが答えた。……中性的にもみえるその姿は、みすぼらしくてもどこか美しい。
その言葉を聞いて、パルは綺麗に笑う。


「ちゃるもみつけるのー。がんばるー」


隣でチャルが、ニットから垂れ下がる耳を揺らす。やはり楽しそうだ。


「まずはラティス全体を見て回りましょう、雪のあるとこに、雪中草花はあるはずですからねっ」


アズの号令の下、三人はラティスを散策する事にする。





「破夜」


歩きながら、不意に、ミュカさんが口を開いた。息が白い。
ここはラティスの町の方。この辺りも十分に寒いのだが、港の方はもっと寒いのだろう。


「お前と出会ったのも、こんな寒い日だったな」


何を突然。俺は思わず口に出してしまった。
俺とミュカさんとが出会ったのは、確かに寒い日の事だった。というより、もっと北の方で。


「あれからもう、何十年も経つのか……」


ミュカさんとは、ウォライの革命以前の知り合いだから、今いる面子の中では一番長い付き合いになる。


「……でも。あれから随分、私の心情も変わってしまった」


ミュカさんが歩みを止める。知っている。俺はずっと、彼を見てきた。
ウォライの革命を経てから、アズの双子の兄、ラルジュとまみえてから、ラックという不思議な少年と対峙してから。


「時折わからなくなる。これからも、私は私の意思を貫けるんだろうか……」


消え入りそうな声。
正直俺には、保証出来ない。あまりにも色々な事がありすぎた。もし、これ以上の打撃を受けたら……ミュカさんは耐えきれるのだろうか。彼だって人間だ。

しばらくその状態が続いたが、やがてミュカさんは首を横に振る。


「自分のしている事は、間違ってはいないはず。だから……」


次にミュカさんは、自分を見た。


「……破夜。もしも、私が道を違えた時は、――」


その目は、真剣で覚悟を決めているが尚且つ……瞳の奥には、ほんの僅かの不安を見いだせた。

俺は彼の事を知っていた。だから、この先何かが起こったとして……ミュカさんがどんな行動を起こすか、何となく予想はついている。だけど、


……その時はその時だ。ミュカさんが懸念することでもない。


その言葉を聞いて、ミュカさんが、少しだけ安堵の表情を浮かべた。


「……ありがとう」


もしかしたら、自分の行動を認めて欲しかっただけなのかもしれない。行いに迷いが生じた時、人は誰しも同意を求めるものだ。


「無駄話をしてしまったな。……急いで捜そう」


そうしてミュカさんは、再び歩き出す。気のせいだろうか、それでもミュカさんの背中は寂しそうだった。





「うー。みつかんないねー」
「うー、みつからないー」


パルとチャルがずっと先の方を見つめる。この道をまっすぐ行くと、港へ下りていく事が出来る。


「町の方にはありませんでしたね……やっぱり港でしょうか」


アズが首を捻ると、二人もこくこく、と何度も頷く。


「うーん……港で見つからなかったら、ちょっと遠出してみましょうか」
「えー。アズ、道迷うじゃんー」


パルが少しだけ嫌そうに呟くも、次にこんな事も言っていた。


「でもでもっ、パルだって見つけたいもんね!」


そうですね、とアズが笑う。チャルも何やら楽しそうだ。


「じゃあ行きましょうか!」


そうしてアズが、足を踏み出そうとした時。


「あれ、アズ……?」


誰かに呼び止められた。
はっ、となってアズが横を見ると、そこには外套に覆われた茶髪の少年が、びっくりしたような目でこちらを見ていた。


「兄さん……!? どうしてここに……」


アズが兄さん、と呼んだこの人物。ラルジュだ。正確には、双子の兄なのだが、彼女は彼の事をいつも、兄さん、とだけ呼ぶ。


「びっくりしたのはこっちの方だよ。パルちゃんにチャルくんも。僕はちょっと用事があったんだけど……三人共、何してるの?」
「ラルさん! あのね、パルたちね、雪中草花さがしてるの!」
「ちゃるもおなじー!」


ラルジュの言葉に、にこにこしながら答えるパルとチャル。対して、若干怪訝そうな表情を見せたラルジュは、アズにそっと耳打ちした。


「本気なの? ……いくら何でも、ラティスじゃあ難しいと思う。アーグとかハイスタとか、そういうもっと寒いとこに行かないと……」
「はい、何となくそう感じてたので、これから港まで捜しにいったらアーグとかに行こうと思ってました」


アズが二人と変わらず微笑みでそう述べると、ラルジュは思わず目眩を覚えてしまった。アズは基本的にこう、物事を変な方向に捉えたまま持っていこうとする性質があるそうで。天然というのかなんというか……昔から変わらない。
そんなラルジュの思いをよそに、パルとチャルは、依然としてはしゃいでいる。ここで、そうだ、とアズが声をあげた。


「兄さんも一緒に捜しに行きましょうよ!」


……何を言い出すかと思えば。


「みんなで行った方が楽しいですって!」
「ラルさんもくるのー?」
「いっしょー!」


この時、ラルジュはまずいと感じていた。このままだと三人のペースに呑まれてしまう。自分は用事があると言っているのに。
ラルジュが困っていると、何やら気配を感じた。彼にとって、あんまりいいものではないらしいのだが、ここは敢えて我慢すると踏んだようだ。ふう、とため息をひとつ吐く。


「見つけた。こんな所に……」


そして三人の後ろから声がした。アズたちが振り向けばそこには、よく知る顔。


「みゅかさん!」
「みゅかー!」


パルとチャルが嬉しそうに、その人物へ飛び付いていくのだった。





「ミュカさん。それに破夜まで……まさか、追いかけてきたんですか?」


アズがそう言うと、ミュカさんは曖昧に頷いた。
と、俺は三人の隣に、彼がいる事に気がついた。俺が促すと、ミュカさんもその人物に気づく。
ラルジュは、不服そうに佇んでいた。


「……久しぶりだね」


あんまりよく思ってないような声色で、そう言い放った。ミュカさんも無言で視線を外す。
ラルジュはミュカさんをよく思っていない。それは俺も最初からわかっている事だ。ただ……最初に会った時よりかは大分、警戒心を解かれているような、そんな気はした。
遠い昔。彼の負った傷は癒えないが、それでも――


「どうして黙って雪中草花を捜しに行ったんだ?」


俺が考えている内に、ミュカさんは、パルとチャルにこう問いかけていた。
二人は、ミュカさんの様子に、少しだけ申し訳なさそうに項垂れた。


「あのね、パルたちね、ミュカさんたちに、雪中草花、見せてあげたいって思ったの」
「だからっ、ちゃるたちで、さがしにきた! ないしょにしたかった!」


……案外答えは単純なものだった。困ったように、ミュカさんは微笑んだ。


「つまりプレゼント、か」


端からラルジュが、そう漏らす。アズもラルジュに向けて、そういう事です、と視線を送った。
そうして、俺はミュカさんの次の発言を待っていた。が、その台詞も大層信じられないものだった。


「確かに私も見たい。……じゃあ今度日を改めて、皆で行こう。な?」


そう言って、ミュカさんはパルとチャルをしっかり抱き止める。……どういう訳か、大事になってしまったようだ。


「わーい楽しみー!」
「みんなでいくのー!」


そうして三人は笑い出す。つられてアズも笑っていた。もう寒さの事など、忘れていただろう。
そんな光景を見送りながら、ラルジュはひっそりと、その場を去ろうとしていた。その背に俺は、彼の羨望を感じるのだった。

fin.
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