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千泡沫庭園

幾つもの泡沫から為る、どこか懐かしい庭園へ。

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ぷろふぃーる

さいしんきじ

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かぼちゃのまほうつかい 


※にわとりとりさん主催アンソロジー、「カボチャのミルク煮」参加作品。すみませんリンク今度載せますね!




――――――――――――


「ぼくの、まほうつかい」





自分は小さい頃から、とある魔法使いに憧れていた。

彼の名前は「ウィズ」

この毛糸の国から遠く離れた、鏡の国に住んでいる。
鏡の国、といえば……数年前に大層な騒動が起きたことで今や誰もがその国の名を知っている程だ。昔は、遥か上空にある辺境であった為、国の存在自体知られていなかったのだが。

あの国は、素敵なところだった。再び行けるようなことがあったのならば……自分は今ここにはいないだろう。




ここは毛糸の国、ファンタジーランド。
このエリア全体が、遊園地のような造りになっており、国には様々なアトラクションが用意されている。
けれども、そのどれもに必ず仕掛けが施されているのだ。初めて訪れた者は面食らうに違いない。その厄介な罠は、時折怪我人を出す程である。どうしてこんなに危険な国なのか。それはこの世界を創った本人に聞いてみるほかないのだが。

そのエリアの端に、劇場が佇んでいる。
外装はいかにも、といったようなファンシーの塊であり、まるでサーカス会場だ。風船が浮かんでおり、建物は南瓜の形をしている。まあ美味しそうには見えないことも無いのだが。一応言っておこう。残念ながら食べられない。
入り口から中へ入ると、そこは無人のエントランスのようになっており、その先に廊下が続いている。
廊下、と言っても、その長い通路の突き当たりにしか、行くべき次の扉は無い。
やがて、親愛なるお客様はその扉を開くだろう。


そこに、自分はいる。



「Welcome to my Fantagy Land!」



そうして暫く経って、劇場から聞こえてくる声。それは決して歓声などではなく……




「んー……何か聞こえるよ?」
「なんだろー?カービィ、いってみようよっ!」
「うんっ!」


そして今日もまた、二人の幼きお客様が、自分の元へとやって来る。




『ちいさなちいさな、あめ玉の魔法』






ああ、どうしてだろう。

めのまえのこどもが、ないている。


「あはははっ、どうして泣いているんだい!?」


笑う。その顔はどこか憂いでも帯びていただろうか。
理由なんて、本当は聞かなくても、わかってる。


「こんなにも楽しい劇なのに、泣くなんて理解出来ない!」


それでも言葉は止まらない。
ぼろぼろと涙を流しているのは、この国の王子。まだ幼い盛りである。隣でこちらを鋭く睨みつけている桃色の球体(だったと思われるのだが、如何せんここは毛糸の国。彼の身体も今はもちろん、毛糸で構成されている)は、恐らくこの世界の者ではないだろう。自分は彼を知らない。
何故だろう。彼らのその顔が、面白くて。手からトランプを取りだし、それらを幼き王子に投げ付ける。王子は反応に遅れて、真っ向から直撃してしまう。
さほど大きなダメージにはなっていないはずだが、王子の身体は軽く向こうへ吹き飛ばされていた。カーテンに当たって、がしゃんと壮絶な音を立てて、カーテンごと倒れる。


「フラッフ!」


桃色の球体が、血相を変えて王子に駆け寄る。王子はもぞもぞと、カーテンから這い出てくる。王子の顔は涙でぐしゃぐしゃになっているのに、それでも大丈夫、と立ち上がる。王子は強い。強いのだ。


「ふふん、さすがこの国の王子とでも言うべきかな?」
「フラッフは僕が守るんだっ!」


そう言って、王子を庇うように立つ球体。それにしても先程より、彼から何だか不思議な気を感じる。その状態がなんなのか。自分にはわからない。
その気迫に、実は気圧されていたのかもしれない。


「君なんかにショーの邪魔をさせてたまるもんか」


そんな球体を、からかうように自分は杖を振るう。地面から、巨大なスロットが現れる。余談だが、これは自分で作った自慢の品だ。かなりの時間と費用を費やし、ようやく完成したのである(一回試運転させたら壊れてしまって大変だった)。
王子がそのスロットを眺め、不思議そうに首を傾げているのだが、球体は依然としてこちらを警戒している。ここへやって来た時とは、まるで別人のような態度だ。
再び、球体は口を開いた。


「何でさっ……!君はマジシャンなんでしょ!?誰かを楽しませるはずのマジシャンが、何で誰かを泣かせてる……のさ……」


無意識に溢れ落ちる涙の滴。それを何度も拭い、少年はその細い毛糸となった手を(別の国から来たというのなら、恐らく本来は、このような芸当は出来ないだろうが)、こちらへ思い切り伸ばした。
スピードはなかなかだが、そんなもので自分を捕らえるなんて事は不可能だ。難なくかわし、スロットの手前にまで飛び移り、そのレバーを作動させた。スロットが高速で回り始める。
それにしても、先程の彼の言葉に不満を抱いていた自分は、そこで反論しようと、今までに無いくらい大きな声で叫んでいたようだ。


「……僕はマジシャンなんかじゃないっ!!」


そう、自分はマジシャンじゃなくて。
無我夢中で声を張り上げる。それは無意識に近い感覚。言っている内容は、矛盾している。わかっているけれど、口が勝手に言葉を紡いでいくのだ。


「僕はそんな道化みたいな奴じゃない……!」


スロットが止まる。揃った絵柄は、爆弾。
雨のように彼らに襲いかかる爆弾は、当たりこそしないものの、確実に自分のペースに飲み込んでいく。球体は王子の手を掴んで、必死に掻い潜る。


「意味がわからないよ!ねぇ、ちゃんと答えてよ、なんで君はこんな事を……!」


叫ぶ余裕なんて、無いはずなのに。彼が愚かなだけなのか、それとも。
よくみると、彼の息が上がっている。倒すなら、きっと今……


「……静かに出来ないお客様には、ご退場願うよ……ッ!」


それに追い討ちをかけるように、自分は再び杖を取り出して――





「お願い……だよッ!」





瞬間、何かが弾けた。


「……これは」





……弾けたのは、何かの欠片だったようだ。
光が反射しているのか、きらきらと眩しい。ただ、真っ白な風景のみが広がっているみたいに思えた。
しかし、目が慣れてきたのだろう、次第に景色が色づき始めた。


それは……どこか遠い記憶。

暗く寒い、向こうの国での事。





誰も気に留めてくれずに。少年はただひたすら涙を流していた。流れるのは光に輝く涙の川。けれどもそれはそんな綺麗なものではない。
滴り落ちるは濁朱色の雫。ぽたり、ぽたりと。
それが痛みだと当時の少年には理解していただろうか。

遂に人通りも無くなってきた。少年はいよいよ恐怖に駈られていく。一人で泣いているということが、こわくて。
けれども、声をあげる事なんて出来なかった。

闇に包まれる世界。今まで見えていたものが、飲み込まれていく。橙色の空が、次第に薄暗くなって……
そういえば、ここはどこなのだろう?

ふと、一人の人間が、少年の方をじっと見つめていた事に気づいた。

暗くてはっきりとはわからないが、出で立ちを見る限り、それは魔法使いのよう。黒いシルクハットと赤いローブ。
その顔は笑みを湛えている。目の前で起きている事象とは対照的に。彼は少年の……自分の状態に気付いているのだろうか?



気づいていない振りをした。きっとまた、何も言わずに去っていくだろうから。

それでも魔法使いは、こちらを見続けた。見つめて欲しくなんて無かった。早くどこかに行ってはくれないだろうか。自分はそんな事ばかり考えていた。

その間、自分が何も言わないので、遂に彼はこちらへ歩み寄ってきた。
何をするつもりだろう。
あっちいけ。そう目線で促すが、彼はとうとう自分の目の前にやってきていた。
魔法使いは、そんな自分の前に屈み込む。


「どうして泣いているんだい?」


理由を問われた。
何で、だっただろう。
そうして、いつの間にか考えていた。
自分は、靄がかった記憶を少しずつ手繰りながら、細々と、話し始めた。
所々噛んでしまったり、表現に困って黙り込んでしまったり、嗚咽が混ざったりと、それは、聞くという面に置いてはあまりにも難儀な事だった。


「うん、うん……そうかい、それで……?」


けれども、自分の脈絡のない戯れ言を、彼は相づちを打ちながら……まるで保護者のように耳を傾けてくれた。
そんな彼のおかげだろうか。次第に口から出る言葉は滑らかになり、話している方も僅かに楽しさを感じていた。決して楽しめる内容では無いはずなのに。
ただ、彼に話を聞いて貰えることが、この上なく嬉しかったのだろう。

一通り話を終える頃には、もう自分の感じていた恐怖感は紙っぺら程までに薄れていた。


「ほら、笑ってみせて」


それでも涙が止まらない自分に、彼は頭にかぶっていたシルクハットを取って、もう一方の手で杖を持ち、帽子の鍔を叩いた。
するとどうだろう、なんの変哲もない帽子の中から溢れるほどの蒼い花が現れる。それから彼は、蒼い花を手に取ると、宙に放り投げた。
すると、今まで真っ暗だと思っていたはずの景色が、蒼白の世界に包まれていく。白い光が差し込む。そんなに時間が経っていたのか。
次に彼が帽子を叩くと、今度は一粒の飴が出てきたではないか。可愛らしい包み紙の、丸くて小さな飴玉だった。
そしてその飴を、自分の手に握らせる。
今までと変わらない笑顔で、彼はこちらの様子を伺っている。そんな彼の態度が、ちょっぴりおかしくて。

どうしたことか、久方ぶりに顔が緩んだような気がした。


「…うん、やっぱり」


それから彼は、嬉しそうに手を叩いた。


「君の笑顔は、泣き顔よりもずっと、きれいだよ」


そう言うと、魔法使いは泣き虫少年の頭を優しく撫でる。
その手はほんのり温かい。寒さに凍えた身体に、今まで感じた事のない温もりを与えられた気分だ。


「これは、君と僕との、友達の証」


魔法使いが呟く。


「僕の名前はウィズ。君は?」


優しい声で、こう聞かれた。




そう、自分は。





……いつの間にか、自分を取り巻く光景は、劇場へと戻されていた。
自分はここで何をしていた?確か、王子と球体と……
そこまで思考して、はっと辺りを見渡す。彼らが、いない。どこへ行ったのだろう、慌てて二人を見つけようとしたが、それよりも早く、後方から声が聞こえた。


「……ごめんね」


それは聞き覚えのある声。間違いなく、あの球体のものだった。
振り返ろうとしたが、どうしてだろう。身体が動かない。


「こうでもしないと、君はまた暴れてしまいそうだから」


球体の台詞が終わると同時に自分の身体は、ぷつりと糸が切れたように……崩れ落ちていた。

そうか、自分は負けたのか。


いや……正確に言えば、動けないことはない。多少無理をすればまだ、戦える。現に、こうして立て膝をついていた。
ただ、彼らはそれを望んでいないだろうし、自分自身も心のどこかで、そう思っていたのかもしれない。
ゆっくりと、感覚の無い身体を後ろへ向ける。自分は細く、息を吐き出す。そして、静かに首を横に振った。
それを確認すると球体は、顔に安堵を浮かべた。先程まで見せなかったその球体の表情は、綺麗であった。或いは、ようやく自分が視認出来た、彼の涙が反射しているだけなのか。


「……魔法の毛糸、貰っていくね」


いつのまにか宙に現れていた毛糸。毛糸はふわりと球体の手に舞い降りて、彼はそのまま大事そうに抱えた。
そう、その毛糸を使えばここと次のエリアとを繋げて、先へ進めるのだ。そうして彼らは、結局この世界を「救う」のだろう。
それがきっと、運命だ。
自分は彼らを引き立てる一役者に過ぎない。わかっていても、自分の役を演じ続けるのみ。

球体が先を行こうとした。が、何故か怪訝な表情でこちらを見つめている。

その時、やっと気付いた。
あの時とは違う涙を流していたことに。
皮肉な事に、どうやっても止まらないのは同じだった。いくら拭っても拭っても、涙は溢れていくばかり。
負けたのが悔しいんじゃない。
彼……ウィズの事だ。
今では簡単に会えない、という悲しさからそれを無意識に二人へぶつけていたのだろう。
八つ当たり。そんな事では、彼みたいな魔法使いなんかにはなれない。
彼は自分を笑顔にさせてくれた。でも自分は、目の前にいる二人に一体何をしていた?
考えれば考える程、袖が濡れていく。


「かぼちゃのまほうつかいさん」


不意に、すぐ前方から声がする。ゆっくりと顔をあげると、そこには球体ではなく先程の王子……フラッフが、無邪気な笑顔で立っていた。
ついさっきまで、泣いていただろう人物が。頬には涙の跡が見えている。この時、王子の姿がかつての自分……ウィズに笑わせて貰った時の自分と重なって見えたのは、多分気のせいでは無かっただろう。そんな彼にぎょっとしたらしい自分は、反射的に目をそらして深くため息をついた。
少し気持ちを落ち着かせてから再び視線を戻すと、小さな王子は、何か言いたそうに口をもごもごとさせている。


「……何か言いたい事でもあるの?」


そういう時は、こちらから促せばいい。
読みは当たっていたようで、王子は嬉々として首を縦に振った。それから、彼は予想だにしなかった事を言い放つ。


「ぼく、たのしかったよ!」


一瞬耳を疑ってしまった。
泣いていたではないか。とても楽しんでいたとは思えない。
思った通りに聞き返した。すると今度は向こうから。


「でもたのしんでたまほうつかいさんも、ないてるよ?」


そんな風に返されてしまった。これには流石に言い返す術を失い、思わず苦笑いを浮かべる。
王子は容赦なく話を続ける。


「ちょっとこわかったけど、でも、すんごくたのしかった!



ちょっとどころではないような気もするが、口には出さない。
それから王子は、先程のショーの感想を次々に挙げていく(最も、「スロットがくるくるまわってるのがすごかったー!」と言われた時には、心底叫びたい気分になる程嬉しかったのだが、これも飲み込んでおいた)
不思議と自分は、王子の話に真剣に耳を傾けていた。
あの状況下でも、こんなにもしっかりと見てくれていたなんて。
段々と、王子の言葉に励まされているような気がしてきた。


「ぼくね、また、まほうつかいさんのまほう、みたいな!」


最後に王子はこう言った。
そして視線をこちらへ真っ直ぐ向ける。
その透き通るような瞳に、嘘なんてものは微塵にも感じられなくて。


「……本当に?」


それでも思わず、聞き返してしまう。
王子は楽しそうに、まるで当然といったように跳び跳ねて。


「うんっ」


嬉しそうに肯定した。
あまりにも気持ちいい程に返されたので、こちらが苦笑してしまう。


「だから、なかないで?はい、これあげる」


そう言うと、王子は懐から飴を取り出して自分に向けて差し出す。
かつて自分がウィズから貰ったものとは少し違う形状をしているものの、きちんとリボンのように包装されていた。何故だかそれは、見覚えのある紙包み。
どこから持ってきたの。そう聞くと王子は、さっきむこうでひろったの!と得意気に言い放った。それから、たくさんあったんだよ!と追記。
それは多分、ファンタジーランド内にあった飴だろう。本来ならばエリア内にあるものを勝手に持ち帰ってはいけないのだが。
まあ子供だというのもあるし、大目に見てやろう。

自分は王子からその飴を受け取り、頭から帽子を下ろす。帽子の鍔を軽く杖で叩いてから中に手を突っ込み、そしてあるものを掴んだ手を王子の目の前へ。
その手には、たくさんの飴。
たちまち王子の目はきらきらと輝き、あめだまのまほうだ!と言って歓喜していた。
それから、くれるの?と言いたげにこちらを見やる。
もちろん。
自分はそう言って、微笑んで見せた。久しぶりに見せた素直な笑顔。形が崩れてはいないだろうか。
けれど、そんな事までは気にしていなかったのか、王子はありがとう、と盛られた飴を抱え、懐へとしまう。しかし、彼の服の構造はどうなっているのだろうか。
そこまで考えていると、遠くから聞こえてきた大きな声に思考を掻き消された。


「フラッフはやくー!先行っちゃうよー!」


見ると球体が遠くから王子の事を呼んでいる。いつの間にあんな所まで。


「カービィがよんでる、いかなきゃ!じゃ、またね、かぼちゃのまほうつかいさん!」


そんな球体の声に、王子はようやく駆け出した。
が、途中でくるりとこちらを振り返ったかと思うと、王子は屈託の無い笑顔でこちらに手を振るのだ。


「こんどあったときも、あめだまのまほうみせてね!」


そう言い残し、再び球体の元へと急いでいった。
そして王子が彼に追い付くと、二人は仲良く手を繋いで歩き出す。

その光景が、やはり、懐かしく思えてしまって。
自分は先程の飴玉を取り出して、強く握りしめた。











「昔憧れた魔法使いに、僕はなれているだろうか」


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