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千泡沫庭園

幾つもの泡沫から為る、どこか懐かしい庭園へ。

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ぷろふぃーる

さいしんきじ

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時のカケラ(握りしめた手から零れ落ちる、時の記憶) 


どこかから響き渡る、無機質な音。

――これは秒針だろうか?





………………



聞こえる。
群衆の高揚した声。
火が燃える音。
所々から漏れる、誰かの泣き言。
それは確かに聞こえていた。

彼女は震え、泣いていた。
大人たちの勝手な都合で、その少女は母親と引き離されていた。
父と双子の兄は、遠い昔に旅へ出ていったきり。
確実に燃える部屋。
彼女は部屋のクローゼットの中で縮こまっていた。
狭くて真っ暗闇。焼けつくような空気を肌で感じる。
その額と、右目の近くには火傷の痕。その辺りだけ妙に焼け爛れている。長い髪は、先の方が燃えてしまったらしく、かなり不自然な格好となっていた。
こわい。こわいこわいこわいこわい……少女の頭の中は、恐怖で溢れていた。
恐怖で一杯だったはずなのに。


……気がつけば、眠りについていたらしい。
目覚めると、火が燃える音はしなくなっていた。群衆の怒鳴り声も、金属音や銃声も、聞こえない。
しかし自分は生きている。
逆に不安に押し潰されそうになった。少女は再び涙を溢す。

と、不意にクローゼットの扉が開かれる。外から洩れた光は、夕焼けのように、真っ赤だった。
彼女の前に現れる、赤と黒の外套の男。
男は少女を見つけると、ふ、と笑顔を見せた。
思わず少女は、泣き崩れてしまうのだった。


………………


そこでは、烏合の衆が集まっていた。
様々な声が聞こえる。


「ウォライの革命は為った。これからこの国は――」


何処からかそんな声がした。


………………


それから、実に十年の月日が経とうとしている。

緑の草原に佇む、大きな樹にて。
元気な少年の声が聞こえる。


「そう、僕ね、ランスターで面白い張り紙見つけたんだ!」


その声につられ、赤い髪の少年と茶色い髪の少女がやってくる。


「何それ気になるじゃんかー!」
「ねぇねぇラック、どんなのだったのぉ?」


三人はいつの間にか輪を作っていたようだ。
二人の問いかけに、少年ラックは自慢気に答える。


「明日お祭りだってさ!十周年のお祭り!」


十周年?何の?と二人から声があがる。が、ラックは首を傾げる。


「……忘れちゃった。ジャンとプリュはわかる?」
「わかんねーから聞いてるんだよー」
「頑張って思い出してよぉ」


ジャンとプリュが促すが、ラックは更にんー、と考え込んでしまう。
その様子を、見かねたらしい緑髪の女性がやってきて、輪に割り込む形となった。


「ウォライの革命記念祭ではないですか?」
「リシュア!」
「うぉらい?」


その女性、リシュアの投げ掛けに、ジャンは彼女の名を呼び、ラックが首を傾げる。確かに彼はまだ、この世界の事をよく知らない。
プリュがはぁい、と手を挙げた。


「ウォライっていうのはぁ、ランバートの近くにある、時の都と呼ばれている街なんだよぉ」
「ほへー、何だか凄そうな所。ランバートは確か……ランスターの東?にあったよね。そう遠くなかったっけ」


ラックが記憶を絞りだしながら頷いていると、隣でジャンが思い出すように呟く。


「確か、昔は王様がいたんだけどー、革命の影響で今はいないんだっけか」
「そうですね。ジャンの言う通り……今はランスターみたいに民衆自身が統治するような体制になっています」


リシュアの補足に、へー、とラック。そーだったんだぁ、とプリュも感嘆している。


「……その革命から、今年は丁度十周年なんだろ」


不意に、輪の外から声がする。


「あ、リミットー!」
「どうしたんですか、いきなり話に割り込むなんて」
「それはお前も同じだろ」


ジャンが手を振り、嬉しそうに彼の名を呼ぶ傍ら、リシュアの発言に目を細めるリミット。輪の中には入ろうとしない。一方のリシュアは、やけに落ち着いた様子だ。


「えー、じゃあつまり、十周年を記念して、ちょっと特別なお祭りをするって事ー?」


プリュが首を傾げながら、確認するように問う。ラックとジャンの視線も、何故かリシュアに向かう。


「そういう事になりますね。……そうでしょう?リミット」
「何で俺に確認すんだよ」


同意を求めるリシュアの発言に、リミットは更に不機嫌になっていた。その様子を見て、微かにリシュアは笑う。


「ねー、リシュア」


暫く黙っていたラックが口を開いた。何ですか?とリシュア。


「みんなで行ってみない?そのお祭り!」


お、とジャンの口から言葉が洩れる。
次にラックはこう続けた。


「僕、まだあんまりこの世界、よく知らないからさ……行ってみたいんだ。他の街のお祭り。ね、いーでしょ?」


そう提案するラックの瞳が、きらきら輝いているのだった。
すかさずジャンが手を挙げる。


「いいぜー!俺もフォーデル周辺以外は、よくわかんねーからな!」


へへっ、とジャンが笑う。
続けてプリュがゆっくりと手を挙げる。


「アタシもぉ!大きなお祭りってのは、まだ行った事ないしー」


えへー、とプリュが笑っている。
次いでリシュアが口を開く。


「面白そうですね。行きましょうか」


そしてリシュアの視線はリミットへ向かう。つられてラックやジャン、プリュもリミットを見つめるのだった。彼は四人に見つめられ、罰が悪そうな顔をする。


「何だよ。別に俺は構わねーけど」
「ほんと!?やったー!!」


リミットの素っ気ない返事に、ラックは手放しで喜ぶのだった。ジャンもプリュも嬉しそうだ。


「んじゃんじゃ、他のみんなにも言ってくるね!明日が楽しみだよー!」


そのままラックはにこにこ笑顔を称えながら、他のみんなの所へ駆けていく。ジャンとプリュも後を追いかけた。
その様子を呆れたように眺めるリミット、微笑むリシュア。
そしていつの間にか、リシュアの傍らで佇んでいる、色とりどりの葉の少女。少女はリシュアに問いかける。


「みんな、たのしみなのか?」
「そうですね。……ユメはどうですか?」


リシュアの問いに、ユメと呼ばれた少女はこう言い張るのだった。


「ユメも、たのしみだぞっ!」


たったった、とラックが大樹――夢の樹を駆ける音。
そう、これは他愛もないはじまりの音。


………………


何処かの部屋。窓からは数名の人で賑わう声が聞こえる。
そんな中、真っ黒の青年が、紫の男に何かを差し出す。


「……これは」


そう言って、紫の男は青年を見た。その赤い瞳の奥は、深い深い何かに沈んでいるようだ。
青年は平然と答える。


「ウォライ革命から十周年。丁度明日だろう?その資料」


そう言いながら、別の紙も取りだし、続ける。


「それに当たって、祭典があるそうだ。どうする?ミュカさん」


その言葉を聞き、ミュカさん――ミュカレーは若干眉をひそめる。次にため息を吐いた。


「普通なら、私が関与した革命の祭典ときたら、参加するべきなのだろう。ただ……」


ミュカレーがそこまで言うと、不意に天井を見上げた。


「彼女……アズを連れていく訳には、いかない……だろう」


その瞳は容姿に似つかわぬ、哀愁を漂わせていた。その様子を見、青年はやれやれ、と洩らす。


「確かに彼女には、少々酷な事かもしれない、か。……まあ、アズには何とか言っておく。とりあえず、あなたは出席するべきだ」


はあ、とミュカレーが更にため息をつくのが聞こえた。ゆっくりと視線を動かし、再び青年の方を見る。


「破夜がそこまで言うなら、そうしておく。でも、とにかくアズには、行かせないようにしてくれるか?」
「勿論。重々承知している」


破夜――ハヤと呼ばれた青年が頷く。
その言葉に、ミュカレーの顔は綻ぶのだった。


………………


ランバートの街。
この街は、中心的な機能を担っている為に、いつもたくさんの人に溢れている。
そんな場所、一人の少女が、道を行く。短い髪、一瞬少年とも見紛う程だ。
しかし、何だか普通じゃない。
辺りをきょろきょろ、見回しながら進んでいる。その表情は、心なしか焦燥を浮かべている。
少女は遂に、十字路に行き着く。しかし、どちらに進めばいいのかわからないらしく、思わず首を傾げた。
そこに、その様子を見留めたらしい、赤い髪に黄土色のコートを羽織った少年が近づいてきた。


「なあ、青い髪のお嬢さん。迷子か?」
「へっ!?……あ、は、はい……」


見ず知らずの人間に、突然話しかけられた少女は、どきまぎしながらも、頷いた。そっか、と頭を掻く少年。


「あー……ごめん。まず、オレは怪しい奴じゃねーから。一応これでも、「R.Pori」の人間さ」
「ロイポリ……あ、あの『ケーサツサン』の方ですか?」


少女の問いかけに、そうそう、と嬉しそうに頷く少年。
つまりに彼は、所謂『警察官』らしい。しかし、どうみても大人ではなく、少年だ。


「で、お嬢さんは何処へ行きたいんだい?」


少年がそう問いかけると、少女は若干躊躇うが、しかしやがてはっきりとこう答えた。


「ラティスです。帰り方を忘れてしまって……」


帰り方、ねぇ。と少年が唸る。すみません、と少女。それに対して、少年がにかっと笑う。


「いやいや、お嬢さんが謝ることじゃない。ラティスへなら、鉄道を使えば行ける。……丁度オレも駅へ行くとこなんだけど」


一緒に来るかい?と言う少年の目と少女の目が合う。
少女はありがたいです、と少年の提案を承諾した。これ以上の親切さは中々ないだろう、と重ね重ねお礼をする少女。


「だから、そんな礼とかいらねーから。……わかった。じゃあ行こうか」


そう言って、少年は歩き出した。が、すぐにくるりと振り返る。


「っと、言い忘れてた。オレの名前はザンカ。お嬢さんの名前は?」


少年、ザンカの問いに、少女は笑顔でこう答える。


「私はアズと申します」


その声は、人々の雑踏の音に掻き消されそうになった。


………………


どこかから響き渡る、秒針の音。

祭典前日の街は、普段よりも活気づいていた。
そんなウォライの中心、時の神殿。
尖塔の屋根の上、賑わう街を、一人の少年が見下ろしていた。その手には、懐中時計が握られている。
音はあの、懐中時計かららしい。
ぱちん、と懐中時計が閉まる音。


「僕は、革命で出来たウォライを信じない……」


そうして少年は、目を閉じる。





………………


聞こえるのは、人々の声に紛れた、秒針の音。

物語は緩やかに、動き出していた。





「時のカケラ」
【プロローグ:記憶の音】


→つづく。

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