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千泡沫庭園

幾つもの泡沫から為る、どこか懐かしい庭園へ。

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ぷろふぃーる

さいしんきじ

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夢の影-2.3 


とても優しくて、温かい。
誰かに抱かれているような感覚。
何も見えない、何もない。そんな場所に、彼女の声と、その温もり。
この感覚が、愛おしく感じられる。
……何か重要な事を忘れているような気がする。でも、今はどうでもいい。


「……シュー……ずっと、」


ずっとこのまま、この心地が、続けばいいのに……




dream-2.3
亡霊を呼ぶ刀の影
-Two or three voices can be heard-





糸で張り巡らされた空間。
それを見上げる、黒い髪をした男。
そう、先程ミラムとプリュが見つけた人物。
彼は頭上で繰り広げられている光景を眺め、呆れてしまった。


「……それはお前の趣味か?それとも、必要な事なのか?」
「必要な事に決まってるじゃない。……もっとも、私の私情も入ってるけど」


思わず漏れてしまった男の問いかけに直ぐ様、その目線の先にいた少女――シュピタルが答える。
彼女は今、糸で絡めとられたリミットを抱いているのだった。意識がないのか、彼のその瞳は閉じられているも、何だか安心しているような……そんな表情であるようだ。


「普通はこーゆー風に落ち着かせるの、大変なんだからね。まあ……あの変に紳士的な人は勝手に狂っちゃったみたいだけどさ」


そこまで言って、シュピタルは頬を膨らませる。同時に、リミットを強く抱き締める。


「夢世界だからって、派手にやり過ぎるのはどうかと思うが」
「んもー、リヴったら心配性なんだからぁ。大丈夫だよ!いざとなったらリミィがいるし」


シュピタルが全く気にしない素振りを見せると、リヴと呼ばれた男は、若干苦い表情を浮かべた。
そう、ここもきっと、夢世界。


「……で、リヴ。さっきまでいなかったよね。どこ行ってたの?」


突然話題を変えるように、シュピタルは男へ顔を向けた。相変わらず、その腕はリミットを抱き締めてはいるが。
彼女はリミットの事をリミィと呼んでいる。という事は、このリヴと呼ばれた男にも、しっかりと本名があるのだろう。


「少し様子を見てきた。……やはり、『夢歪み』は大きな影響を与えているようだ」


男は淡々と説明する。
それを聞いて、シュピタルは首を横に振っていた。


「……やれやれ、時の守人さんも災難だよねー。あの事件、夢にまで影響してるって事ね」


こーんな感じに、とシュピタルが「上」を指差した。
男がつられて更に上を見ると、そこには黒い靄が、雲のように溜まっていた。普通、夢世界の靄――ラック達が見たムーマの元は、白に近い色をしているものだ。これだけでも、明らかに異常だとみてとれるだろう。
一方、リミットも、虚ろな瞳でそれを見上げている状態なのだが……何かを感じているようには、到底思えない。
何かわかる?とシュピタルの問いかけにすら、反応を示さない。彼はただ、彼女に優しく抱かれたまま。
そのやり取りを眺め、男は思わず嘆息した。
シュピタルはそれに気付き、怪訝そうな顔をして呟く。


「何?リミィに話しかけるの、いけない?」
「……別にそういう訳ではない。お前がやりたい事を、やればいいだけの話だ」
「うん。……そうだよね」


男の返答に、シュピタルも、少し機嫌を良くしたようだ。彼女はリミットの頭を撫でていた。


「それと、二人ほど少女を見かけた」


暫くして、男が急に切り出した。
え?とシュピタルが首を傾げ、リミットを撫でる手を止める。それを見たのか見ていないのか、男は表情一つ変えずに続ける。


「他にも生命反応を感じられる。恐らくは、夢関係の者の仕業だろうが……それ以上に」


男が一旦言葉を区切る。


「夢世界にまで、取り返しに来たのだろうな」


そう言って、男がリミットを見る。
その意味を理解したらしいシュピタルは、少々寂しそうな表情を浮かべた。


「そっか。やっぱり……黙って見逃してはくれないか」
「その様だな。そもそもその男、強引に拐ってきたのだろう」


男が返した言葉に、シュピタルは、むっと頬を膨らませた。


「知らない。リミィは私のものだもん」


突き放すように答えるも、彼女は不意に視線を落とした。その顔は随分と弱気であるらしい。


「……わかってる。わかってるけど……」


そう言いながら、リミットの頬を優しく撫でる。それで不安を抑えているのか、その手は止まる事を知らないようだ。
そんな様子を眺め、男は細く息を吐いた。
と、不意にシュピタルが口を開く。


「私、ちょっと行って来てもいいかな?」


何処へ。そう男が問うと、大事な用事、とだけ返された。そのまま彼女は、ゆっくりリミットから手を離す。


「また後でね?」


そう言い残して、シュピタルは何処かへ駆けていった。よくもまあ、こんな不安定な糸の上を走れるものだ。何か法則でもあるんだろうか、その、上手く走れるコツみたいなものが。

残されたリミットは、暫く虚ろな瞳で辺りを探るように眺めていたが、突然、びくんと跳ねるように身体が動いたかと思えば、そのまま大きな動きを見せる事はなくなった。息は、している。その表情は、よく見えないが、先程の幸せそうな顔から一変し、どこか思い詰めたような……不安を称えているようだった。

一部始終を下から見ていた例の男。
最後のシュピタルの言動に納得がいかないようで、腕を組んでリミットを見上げていたのだが、やがて何か心に決めたようで、踵を返すように彼もまた、この空間から姿を消した。
けらけらと、笑い声。後に引くのは、糸のような、いや、霊の感覚。





再び目覚めると、急に吐き気を覚えた。
慌てて不快感を飲み込んで、身体を起こす。
先程から、寝たり起きたりを繰り返しているような気がする。でも、どれくらい寝たのか、はたまた起きていたのか、全くわからない。
何も感じられなかったはずなのに、先までは、言い様のない幸福感のようなものに包まれていたらしい。未だにふわふわしている。
温かくて、優しくて――
でも、今は何だか違う。
怖い。寒い。暗い。
……シューはどこだ?
さっきまで近くで声が聞こえたのに、今は誰の声も聞こえない。怖い。
温かかった感覚から、一気に温もりが消え去っていく感覚へ。寒い。
眼前に広がるのは、己を呑み込んでもおかしくないような、深い闇。暗い。とにかく真っ暗。
やはり声を出しても何かに掻き消される。聞こえない、何も。
どうなるんだ?このままずっと、この状態が続いたら……シューは一体何処へ?
耐えられるはずが、ない。多分……だって、俺は、


(シュー、お前は、一体、どこに……)


この声も、きっと、届かないんだろう。





「私にはわかる……」


少女は、頭上を見上げる。
広がるのは、黒い靄。天にはおよそ似つかぬ、闇の穴。確かにそこに、瞳の奥に映っていた。
……いや、その穴の向こう。微かに見えるのは、緑髪の女性。
それを見つけると、少女は目を細めた。リミットにも、あの男にも見せなかった表情である。


「迷う理由があるなら」


少女――シュピタルがぽつりと呟く。


「……消しちゃえ」


たん、とシュピタルが地を蹴り上げる。そのまま彼女は、どこかへ駆けて行ってしまうのだった。





歩き続け、ふと何かに気付いた。
足元から、変な気配を感じたのだ。この水みたいな下方に、人間を引きずり込むような怪物でもいるのだろうか。緑髪の女性――リシュアは立ち止まる。
そうして、水面を見つめるのだが、特に目立った変化は感じられないが……映るのはただ、自分の姿のみ。揺れる水面に向けて、思わずその表情を歪めた。


「随分と余裕そうですね」


映る自分の姿に、そう語りかける。そこに在る彼女の口は、動いていない。
うふふ、と何処からか笑い声。
刹那、水面の姿がぐにゃりと歪み、紫色を体現したような少女の姿が現れた。


「はじめまして、だね?」


少女はそして、再び笑う。


「どなたですか」


下を向いたまま、その姿を見据え、リシュアは問う。
少女の口が動く。


「私はシュピタル。ここの住人……って事にしておくね」


そう答え、シュピタルが笑う。リシュアはそれが(普段は気に留めないはずなのに、)何だか気にくわないようで、無意識にシュピタルにこんな事を訊いていた。


「私に何の用ですか?」
「簡潔に言うなら……リミィの事」


「リミィ」の意味がわからず、リシュアは、それが何の事だか問うた。
彼女は待ち受けていたように、すらすらと説明するのだ。


「茶髪でマフラーのあの子。とっても可愛い子だったから引き寄せちゃった。……もっとも、今貴女が捜している人、と言えば早いかもね?」


シュピタルの答えを理解するのに、少々時間を要した。リシュアは、次に、刀を抜き、突き付けた。その目は、シュピタルを睨む様。


「リミットに何かしたんですか」
「この水面に刀を突き立てても、何にもならないよ?」


リシュアの問いには答えず、シュピタルはくすくす笑う。対して目を細め、その姿を捉える。


「……何かしたんですか」
「したかもしれないけど、何もないよ?」
「返して下さい」


リシュアが負けじと言い張ると、シュピタルは首を横に振る。


「やだ。リミィは私のものだもの」


そのシュピタルの言葉が終わると同時に、刀が水面を斬る音がした。水はゆらゆらと揺れ、やがてそこには、珍しく怒りを隠しきれていないリシュアの姿が映し出された。
ちゃぷん、と後ろから音がした。くすくすくす、と笑い声が響く。


「本当の事を言っただけなのに」


振り返り、リシュアは刀先を、その声の主に向けた。そこには、水面に映る姿ではなく、しっかりとリアルな、人間の姿。


「理解出来ません。そもそも彼は何故、貴女の元にいるのですか」
「誰も私のとこにいるとは言ってないよ。でも、当たり。理由は……」


そこで一息置いて、シュピタルはこんな事を言い出した。


「私は彼を必要としているし、彼も私を必要としている、から」


その言葉が終わり掛けた時、響いたのは水を斬る音。
リシュアがシュピタルに斬りかかったのだ。
しかしシュピタルは斬れず、すんでのところでかわされていた。
シュピタルを睨み付けるリシュア。彼女からは、普段感じられないオーラが漂っている。


「そんな事、本人に聞かないとわかりません」
「わかるよ。わかる。私には、ね」


くるりとその場で一回転。
リシュアはその姿を睨むが、シュピタルはお構い無しのようで。
あ、と突然シュピタルが声をあげた。そして、わざとらしくこう言った。


「もしかして、羨ましいんでしょー?」


今の言葉にかちんと来たらしく、リシュアは刀を水面に突き刺した。途端に赤い翼か花びら、もしくは闇のようなものが舞う。……術だろう。


「あれれ、本気出しちゃう?私を叩いても意味ないのに」
「本気も何も、貴女の言動が癪に障るだけです」
「ふふ……残念」


そう言って笑うシュピタルを、赤い闇は切り刻めていないようで。
深くは疑問に思う事もなく、リシュアはそっと、刀を握る手に力を入れるのだった。


「私に敵うかな?」


それを嘲笑うかのように、待ち受けるのはシュピタル。



――――――――――――


「嘘ではないし、本当でもない。全ては影の中」


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