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千泡沫庭園

幾つもの泡沫から為る、どこか懐かしい庭園へ。

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ぷろふぃーる

さいしんきじ

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木漏れ日の降り注ぐ森の昼下がり 


「冷たい身体に、温もりを」





Go[D]eath
「歴史書Ⅲ:屍人と少女」





彼と出会ってからまもない頃だっただろうか。

二人は生い茂る森の中を歩いていた。本来ならば、日差しなんて入り込まないような場所ではあるが、木漏れ日のおかげで足元が見えるくらいには視界は良好だった。
吹き抜けた風に振りかえると、そこではアーヴェが空を見上げている。
空は木々で覆われている為、蒼い色を見つけることが出来ないのは当然で。白い光だけが彼に降り注ぐ。彼の容姿に、光はあまり似合わない。
どうしてだろう。フローラが初めて彼と出会った時、彼はどこか悲しげに物を見ていた。それは何に対しての悲しみなのか、それとも、元々そのような感じを漂わせているだけなのか……
彼の事は未だによくわからない。

ぼんやりと、空を眺め続けているアーヴェ。何かを見ているのだろうか。そこには緑と白い光しか見えないのだが。しかし、いつまでたっても、空から視線をそらす事はない。そのまま数分が経過していく。
眠いのだろうか。少し付き合っただけで、彼の体力の無さには十分気づかされている。このまま眠ってしまわれても困る。いや、まさか意識が飛んでいるとかはないだろうか。彼の事だから、あり得なくはない。一応は死者なのだから、いつその身体が消えてしまう可能性だってあるのだ。

フローラはそっと彼に近づいて、呼び掛ける。一回目は反応がない。
もう一度呼び掛けてみる。今度は欠伸をした。起きてはいるようだ。
いい加減苛々してきたフローラは、少し大きな声で彼の名を呼ぶ。
すると、彼は若干眠そうにこちらへ視線を移し、フローラを見つけると、何か食べたい、と言い出した。

何か、と言われても困るわよ。フローラは考えてしまう。手元には、先の教会でエティから貰ったおにぎりがいくつかある。でも、この森を抜けるには、こんなところで食するのは勿体ない。
そんな感じでフローラが渋っていると、今手元に小麦粉はないかと聞かれた。
無いわけではない。ただ、それをどうするつもりだろう。とりあえず、小麦粉の入った袋を彼に手渡す。
すると彼はその小麦粉を手にとって、なんとか楕円柱の形にしようとし始めた。
慌てて止めに入る。が、アーヴェは首を傾げる。小麦粉からパイが作れると聞いた、と。
思わず吹き出しそうになってしまう。未だにわかっていないアーヴェ。
小麦粉ならなんでもいいって訳ではないわ。ましてやオーブンもないのにどうやって作るつもりなのよ。
そんな事を言っても、彼はただ、林檎ならその辺にある、と言うだけ。
林檎、なんてものはパイを作る時に必ず必要というわけではないのだが……彼は一体何を考えているのだろう。

このままではいけない。フローラはこれで我慢しなさい、と半ば諦めたようにおにぎりを取り出す。
彼はそのおにぎりをそっと受け取り、暫く見つめてからやがて食べるのか、と思いきや、再びおにぎりをフローラに差し出した。いらない、と。

どうして。
お腹が空いているのでないのか。
そう聞くと、彼は再び悲しげな表情を浮かべる。ああ、そうか。
なんとなく分かってしまった。
何か食べたい、というのは単なる食べ物の事を指したのではないのだ。決して、空腹だからというわけではなく。彼は既に生者ではない。
ただ空腹を満たすだけなら、どんな食べ物でも良い。けれど、死者にはお腹が空いた、という概念は無くなってしまっているのだろう。
死んでしまえば、その心身は冷たくなっていく。
先程、木漏れ日を眺めていたのは、光を求めていたからなのだろう。確かにその光は……
だとすれば、彼が食べたいものは。

温かいものが、食べたいの?
そう聞き直すと、彼は然り気無く視線をそらした。どうやらそういうことらしい。
木漏れ日は確かに温かい。本来なら薄暗い森の中で、冷えきった身体を暖めるには、あのような光はかなりの助けになる。
しかし困った。ここには温かい、といえるようなものが何もない。
先に確認したように、オーブンはない。
いや、火をつけることができれば、何か調理することは可能だろう。幸い、マッチはいくつか手元にある。
フローラはアーヴェに、薪になるような物を持ってきて、と頼んだ。すると彼は少々考えた後、落ちている木の枝を拾い出した。

火を使って、何を作るか。
材料といえば、小麦粉と先のおにぎりしかないのだが。これではさすがに何かを作るのは難しい。
いっそこのおにぎりをお粥にしてしまうか。水ならある。
アーヴェが丁度、手頃な薪を持ってきてくれた時、フローラはまだ一度も手をつけていない鍋を取り出した。エティから譲り受けた物だ。
その鍋の中に、いくつかのおにぎりと水を入れ、アーヴェには薪に火をつけさせた。火を怖がる様子はなく、寧ろ嬉しそうな感じであった。火は木漏れ日よりも、暖かい。

鍋を火で温めていると、時間が空いてしまった。
アーヴェは火の側から離れようとしない。よっぽど、暖かいのだろう。フローラもなんとなく、アーヴェの隣で暖まっていた。
そういえば、昨日も一昨日も、教会周辺や森はとてつもなく寒かった。
山の方はそれをも遥かに越える寒さらしいが、二人とも行ったことがないのでわからない。
それに、ここ最近二人には暖まる機会など無かった。ましては彼は、ずっとあの場所で眠っていたのだから。

突然、アーヴェが、手に触れてもいいかと聞いてきた。
少し驚いたが、その意図はすぐにわかったので承諾した。
すると、彼は自らの手を彼女の手の上に乗せてみる。やはり、その手は冷たく冷えきっていた。
暖かい。
彼はなんだか嬉しそうに呟いたが、フローラは逆に悲しく感じてしまった。

そのような状態で暫くすると、鍋から泡が吹き出てきた。少しやり過ぎたか。
急いで蓋を開けると、そうでもないようだ。とてもおいしそうな仕上がりだ。
無駄にしないよう、お玉で皿に二人分すくう。これもエティから貰ったものだ。

おいしい。
再び、アーヴェの笑顔を見た。
お粥は丁度良い具合に温まっており、身体を温めるには、十分だった。
そんなアーヴェの幸せそうな表情をみて、フローラもまた、同じように温まっていく。

しかし、森を抜けるにはまだまだ時間がかかるのだが、今の二人には知らない方が幸せだろう。





「……私はずっと、凍えていたのかもしれない」







――――――――


Go[D]eath
「木漏れ日の降り注ぐ森の昼下がり」
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